ボデガ ルナレス

作り手:ペドロ モラレス

今、新しいスタート地点

 ロンダの他のワイナリーに比べるとワイナリー ルナレスを見つけるのは比較的簡単です。「ルナレス」という、ホテルの看板を目印に国道を走っていけば良いからです(ワイナリーによっては、未舗装の田舎道を何キロも行かないとたどりつけないところもあります)。最近買収したこのプチホテルが新装開店されると、このワイナリーには、新たな魅力が加わる事になります。ホテルとして必要とされる全てのサービスと、イベントを行える施設を敷地内にかね備えたワイナリーは、ロンダではここだけだからです。

「エキサイティングな時に来たね」と、このプロジェクトを率いるペドロ・モラレスが、私達を迎えてくれました。「このホテルは部屋数が、9室しかないプチホテルなんだ。ワイン好きの人達が、本当に喜んで泊まってくれる様なホテルにしたいんだ。色々なワインイベントもやりたいと思っている。アグリツーリズモを通じて、ワインについて語ったり、皆さんが、日常を忘れて自然の中で休養できるところにしたいんだ。そのためには、まだまだ沢山やる事が残っているけどね」と、笑顔で語りながらホテルの中を案内してくれました。

 働くというのがどういうことか、ペドロはよく知っています。ロンダのホテルのオーナーである父、教師の母、弁護士の姉をもつペドロは、そのどの道も歩むつもりはありませんでしたが、それぞれの道を究める事が如何に大変な事であるかを見てきました。ペドロは、ワイン作りの道を選びましたが、それがどんなに大変な事であるかを、十分に理解した上でこの道を選んだ様です。

 樽の中でも、ワインは変わり続け、生きているのです

 「僕が最初にワインを作ったのは、2008年だった。最初のブドウを植えてから、5年後の事だった。エノログのヴィンセンテの力を借りて作ったんだ。ヴィンセンテは、醸造技術等で、僕や、ほかの地元のワイナリーを助けてくれているんだ。」と彼のワイン作りの事を語ってくれました。私達は、ぺドロの案内で、小さな醸造所を通り抜けて、ワインの貯蔵庫に行きました。そこは、いろいろ違った名前がチョークで書かれた樽でいっぱいでした。「ここには、趣味で自分の庭でぶどうを育てながら、ワインを作っている人たちの樽も保管してあげているんだ。ワイン作りに興味を持ってくれるのはありがたい事だし、ここは、特別な設備がなくても、温度・湿気も、ワインを熟成させるには最適な環境が維持されている場所だからね。結構知らない人も多いんだけど、ワインは樽の中でも生きていて、変わり続けている。だから、温度・湿度条件はすごく重要なんだ。味・香りにも大きな影響をするからね。ここは、現在ロンダで使われている最も古い貯蔵庫で、ふきわらの屋根は、1800年代に作られたもので、もう100年以上も前からワインを熟成させるための蔵として使われてきているんだ。」と誇らしげに語ります。

 蔵の奥の階段を上がると、テイスティングルームがあります。ここからは見事な樽のコレクションが下に見渡せます。空気は冷たく、ワインの匂いがただよっています。「金儲けのビジネスを考えるんだったら、ワイン作りは辞めておいた方が良いと思う」と、彼は笑います。「日が昇る前に起きなきゃいけないし、寒い日でも、暑い日でも、野良仕事をしなければならないし、華やかさはまったくないしね。それに、自然相手の仕事だから、毎年良いブドウが採れるとは限らない。特に、有機栽培をやっていると、こういうリスクは高くなる。ワインこそ自分の人生だと思えないと、ワイン作りはできないと思う。でも、ロンダのワインの作り手達は、ひとつの大家族みたいな感じで付き合ってくれるから、いつの間にか、気が付くと、自分もどっぷりとワイン作りの世界に浸かってしまっていて、出られなくなっちゃうんだよ。」彼は、まだ若い作り手ですが、今年「ロンダ山脈ワイン・ブドウ生産者協会」の会長に就任しました。この組織は、ロンダ全体のワイン作りの品質規格等を管理する協会で、ロンダというワイン産地の将来にとって重要な役割を彼は負ったことになります。

 新たな人生のスタート

 ペドロは、敷地内の改装中のホテルでの、いくつか大きな計画を持っています。そのひとつは、自分の結婚式をここで行うことです。「このホテルの新装開店の最初の客に自分がなるんだ」と彼は笑います。この夏に、彼はここで婚約者と誓いを交わすために、急いで新装開店を準備しています。プール、テラス、入り口も改装する予定です。野生の花や、伸びきった低い木が生い茂るホテルの裏庭を見ていると、ここが長い間ほったらかしになっていた事がわかります。ここがかつての美しいホテルに、ペドロの手によって、蘇ることになります。「ワインの作り手と結婚するのがどういうことか、僕の彼女は理解してくれている。彼女はワイン業界を知っていて、それが、どれほど大変な仕事かもわかっている。ブドウを育てて、摘んで、瓶詰めするだけじゃない。出張も沢山するし。ワインのイベントや試飲会のために外国にも行くし、ディストリビューターを訪ねて自分のワインを売り込んだりもする。作るだけじゃなくて、ワインを売る事も実は大変なんだ。今は、僕達二人にとっても、ワイン作りにとっても、新たなスタート地点に立った様なもの。このホテルがオープンしたら、このワイナリーには新しい人生が始まる。それと同時に、僕たちも夫婦として、新しい人生をスタートさせるんだ。」と嬉しそうに話します。

 小さなホテルは、小さな醸造所と貯蔵庫のすぐ隣にあり、ブドウ畑もすぐ目の前に広がっています。「ここは、フランスのワイナリーみたいで、とても気に入っているんだ。フランスのワイナリーは、ブドウ畑と醸造所がとても近いところにある。それはワイン作りにとっては重要な事なんだ。ブドウは繊細で収穫時に遠くに運ぶのが難しいから、同じ敷地内で摘んで、醸造して、瓶詰めできる事が、品質と味を良くする条件なんだ。それに、ここに宿泊する方々には、ワイン作りの過程を、間近に見てもらえるしね。」

 高い物には理由がある

  ペドロは、多くの人が自分が飲むワインがどのように作られているのかに興味を持たないことが、不思議でなりません。「ワインに限らず、高い物にはその理由が必ずある。僕のワインは、質が高く、美味しいワインだという自信がある。ブドウを摘んだり、仕分けたりするのは手作業で、注意深く、正確に行われるんだ。ワイン作りに使うのは、そうやって選別される完璧な状態のブドウだけ。多くの人達は安いワインを買う時に、ワイン作りには、ワイン以外にラベルやコルク、ボトル、流通にもお金がかかることを考慮していないと思う。たった2ユーロくらいのワインって、いったい中に何が入っているんだろう?ブドウは入っているのかな?と僕なんかは疑ってしまう。」

 24歳でワインの世界に入ったペドロは、変化を作り出すことに情熱を持っています。地元ロンダではすでに有名になったルナレスのブランド名は、少しずつ国内外でも知られるようになってきています。2016年、彼の白ワインは、「Flavours of Malaga」賞で金賞に輝きました。その前の年には赤ワインで同賞を受賞しています。「多くの外国人は、スペインのワインというと、リオハを思い浮かべるよね。スペイン人でもそうなんだから仕方ないけど、僕はそれを変えたいんだ。ロンダは多くの可能性を秘めていると思う。この地域のほかの作り手と一緒に、アンダルシアの、このすばらしいワイン産地を、有名にしていきたい。すでにフランス、ドイツ、イギリスやカナダから、バスに乗った観光客たちがテイスティングのためにここを訪れる様になってきている。地元の人達も良く来ますよ。その人たちに宿泊場所を提供できるようになる日が、待ちきれない。そうすれば、彼らはもっとゆっくりと僕達のワインを楽しんでくれるでしょうから。」

 古いホテルの、まだ手入れがなされていない庭園から、遠くに広がる美しい風景を見つめていると、ペドロの考えていることや、計画していることが、分かってきます。エネルギッシュなワイナリーのそばに素敵なプチホテルがあり、アグリツーリズモという新しいアプローチ。ここで、ワイングラスを片手に、田舎のバカンスを楽しむ人達を容易に想像することができます。「今は、まだ始まったばかり」と彼は言う。「未来は、すごくエキサイティングなものになりますよ。」