ボデガ デスカロソス ヴィエホス

作り手:フラビオ シレシィ & パコ レタメロ

古い礎の上に育つ新しいワイン

 スペインのワイナリーといえば、なだらかな丘陵の白い家とブドウ畑が広がる農村風景を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか?谷に隠れた500年の歴史を持つ修道院を想像する事はほとんどないと思います。私達はまさにそういう谷間の修道院に来ています。この修道院のワイナリーを案内してくれるのは、建築設計家で、かつ、ワインの作り手のパコとフラビオです。ここはロンダで、いや、もしかしたらスペインで最も神秘的なワイナリーかもしれません。

 このワイナリーのエノログとして働いているヴィンセンテも一緒に庭園を歩きながら案内をしてくれました。ヴィンセンテの仕事は、パコとフラビオの夢をワインを通じて実現することです。「この修道院は1506年に建てられたんだ。」とフラビオが説明してくれます。「ここには「デスカルソス」と呼ばれる修道僧たちが住んでいたんだ。デスカルソスとは、「裸足の」と言う意味だけど、ここの修道僧はみんな裸足で生活していたから、そう呼ばれてたんだ。19世紀の終わりにこの修道院が町の中心部に移って行った後は、ここには年配の修道僧達だけが残って庭の手入れを続けていたので、そんなことからこの修道院はデスカルソスヴィエホス(訳注:ヴィエホは「年老いた」の意)と呼ばれる様になったんだ。」

 

ここにはかつての精神的な拠りどころが残っている

 ここにはゴツゴツした岩の通路や、忘れ去られた自然の泉、それに秘密の隠れ場所など、かつての修道僧の精神的な拠りどころが残っています。修道院の崖下に位置するブドウ畑を見下ろせる場所まで、見慣れない植物の間を通り抜けて行く私達の後を、人懐っこい猫の家族が付いてきます。「この修道院はオヤ デル タホ呼ばれる谷に位置していて、山のくぼみが風をさえぎるので、気候が独特なんだ。数キロ程度しか離れていない近辺の場所に比べても、ここはいつも暖かいので修道僧たちはイチジク、アボカド、そして金柑とか、ロンダでは普通栽培できない様な果物を育てることが出来たんだ。ここはブドウ栽培にも、ワイン作りをするにも完璧な環境が整っている小さなエデンの園みたいなところなんだよ。」とフラビオは言います。

 フラビオはアルゼンチンのブエノスアイレスの出身で、ビジネスパートナーのパコはスペイン出身です。彼らは建築家として25年間一緒に働き、アンダルシアのあちこちで大きな建設プロジェクトに携わってきました。「僕達二人は、パートナーとして長く一緒に仕事をしてきたけど、スペイン経済の不況により、建築事業が減速していたので、何か新しいことを始めたいと思っていたんだ。そしてこの場所を知った瞬間に、僕達はこの建物にほれ込んでしまった。最初は、具体的にここで何をするかのアイデアは無かった。ただ漠然とこの廃墟となった修道院を修復できれば、何と素晴らしいだろうと思ったんだ。それが僕達のハードワークの始まりだった。」

 二人は、この廃墟を2000年に購入し、2年間かけて復元しました。リフォームや建築についての豊富な経験と長く一緒に仕事をしてきた二人にとっては、この修復作業は、心の安らぎを兼ねた長い休暇だったのかもしれません。「ここは、ブドウかオリーブの木を植えるのに理想的な場所だと言われてたんだけど、古い文献を調べていると、この修道院では、昔ワイン作りが行われていたことがわかったんだ。それを知って、僕らは建物の修復と同時にワイン作りも復活させる事を決めたんだ。」そして、5年後に、彼らのファーストヴィンテージがリリースされる事になります。

 醸造所のワイン醸造用のタンクを通り過ぎて、ワイン樽が貯蔵されている部屋に入ると、私達は息を呑みました。そこは、聖性な場所に見えました。奥の壁の左右にアンダルシアの守護聖人を描いた昔の印象的なフレスコ画が描かれていました。これこそがデスカロソスソヴィエホスという名の由来の象徴だという事が良くわかります。

 

ワイン作りの神殿

 「この廃墟を購入した時は、このスペースは屋根もなく、地元の農夫が羊を飼う小屋代わりに使っていたんだけど、想像できないでしょ?この壁のフレスコ画を修復するのも本当に大変な作業だったんだ。今では、ここは僕達のワイン作りの神殿のような場所になっている。」

 私達は素晴らしい風景が広がる小さなパティオに腰を下ろしました。フラビオは、アルゼンチン人らしく、人生に対するバイタリティと情熱に満ちています。足元の猫を撫で、笑顔で空を見上げながら「ここは僕にとって第3の人生の出発点なんだ。」と彼は言いました。「若い頃はアルゼンチンで建築家になることを夢見ていた。スペインに渡ってその夢を叶え、家族を得る事ができた、このアンダルシアの地を心から愛している。そして今、ワイン作りの新たな人生が始まった。僕にとっては、これ以上に綺麗で、素敵な場所は他にはないんだ。」

 太陽は、このパティオに注ぎ、猫たちは人懐っこく、私達の腿の上に座り、そして、パコが彼等の赤ワインdv+を注いでくれます。彼は、もの静かにワインを口に含み、味わいを確認しています。こうしていると、いつまでもここでゆっくりしていたいと誘惑にかられます。

 フラビオが話を続けます。「ワインは、アルゼンチンに住んでいた頃から生活の一部で、大好きだったけど、パコと二人で、ワイン作りの世界に入るまでは、この世界が建築の世界にこれほど似ているとは思ってもみなかった。最初は何も無い白紙から、計画を立て、種をまいて待つんだ。人生の目標として達成させるに値する様なことには時間がかかるものだけど、ワイン作りにも同じ様なプロセスがあって、大建築をする時のように多くの専門家の知識とビジョンが必要なんだ。ブドウを畑に植えてからボトルになるまで、最低でも5年はかかるけど、それを達成した時の喜びは言葉では言い表せない。人々に喜んでもらえるものを作るということは、僕達にとって大きな幸せな事なんだ。」

 このワイナリーでは、多くのワインツアーを受け入れています。また、毎年ジャズと地元のバンドによる2つのコンサートが開催されています。そこでは屋台が並び、地元の料理や、デスカルソヴィエホスのワインが出されます。そこではDJが入って早朝まで演奏が繰り広げられ、ロンダでも料理、ワイン、そして音楽が楽しめる有名イベントとなっています。ワイナリーの至るところにデザイナーをしているパコの息子がデザインしたイベントの大きなポスターが貼られています。

ワインは人々の気持ちを開かせ、そしてスローダウンさせてくれる

 「ワインと芸術、建築、音楽、そして女性が私にとっての全てです。 」とフラビオは微笑みながら言います。「ワインは人々の気持ちを開かせ、そしてスローダウンさせてくれる。そうして人と人をつないでくれるんだ。現に今の私達だってそうでしょ?世界で起こっている事など忘れた様に、ここに座って談笑してるよね。太陽の光を浴びて、美しい景色を見ながら、そして、ワインを飲みながら、僕達のワイナリーの成り立ちを語り合っているけど、これもワインのなせる技だよね。こういう時間は人生のお祝い事みたいなもので、思い出をまた作ってくれる。ここには世界中から色々な私達が僕達のワインを試しに来てくれる。彼らがここでワインを楽しんでくれている様子を見るのは本当に幸せな事だし、そして、彼らから本当にたくさんのことを学んでいる。これは、建築家として仕事をしていた時には絶対に得られなかった幸福感なんだ。」

 暖かく迎えてくれたワイナリーに別れを告げるとき、フラビオは最後にこう言いました。「この地球に53年間生きてきて学んだことは、天が与えてくれるものは全て受け入れ、自分の持っている力は、全部使って働くということだ。」昔このゴツゴツした通路の上を歩いていた裸足の修道僧達も、この教訓に同意してくれるのではないでしょうか。

 ロンダのデスカロソスヴィエホス は、片足を過去にしっかりと置きつつ、もう一つの足で未来に踏み出すことで、ワイン作りを復活させました。この時間に忘れ去られた場所にフラビオとパコ達が注ぎ込んでいる情熱、エネルギー、そして愛情により、この建物が再び歴史から忘れられることはないだろうと思いました。