フィンカ ドナ フェリサ

作り手:ホセ マリア ロサントス エルナンド

 伝統的ワイン作りと現代技術との融合

  ホセ マリア ロサントスの家がある、フィンカ・ドナ・フェリーサに行くと、そこでは、大きな門と、そこから伸びる印象的な道の向こうに広がる絵に描いた様なブドウ畑が訪れる人達を迎えてくれます。古代ローマ時代のワインの街アシニポの円形劇場跡を見下ろすワイナリーは、1999年に完成し、ホセの義母にちなんでドナ フェリーサと命名されました。

 子供の頃のおやつと言えば、赤ワインに浸した白パンに砂糖を掛けたものだった

  「義母は驚くほど素晴らしい女性だった。」と、ホセは飼い犬のティントが足元で飛び跳ねる中、語ってくれました。「このワイナリーには義母にちなんだ名前がぴったりだと感じたんだ。」ホセは、リオハの近くのブルゴスに生まれました。ワインは彼の子供のころからの生活の一部でした。「僕は、仕事に就ける年齢になると、すぐ海兵隊に入隊した。その後は色んな会社を手がけて、結婚した時に、妻と一緒にコスタデルソルに引っ越し、建設関連の仕事に就いた。でも、心の中では、ワインはいつも特別な位置を占めてたんだ。リオハ地方では、ワインは日々の生活の一部で、子供の頃のおやつと言えば、赤ワインに浸した白パンに砂糖を振り掛けたものだった。年齢を重ねるにつれ、僕は、田舎の生活に戻る事を真剣に考えるようになった。そして、本当に自分が好きな事をやりたいと思った…それで今、僕はここにいるわけなんだ。」

  6ヘクタールのこの小さなブドウ畑では、チンチーリャのブランド名で、カベルネソーヴィニヨン、メルロー、プティ・ヴェルド、そして、スペイン原産種のテンプラニーリョなどのブドウが育てられています。2005年にホセは、ファーストヴィンテージのワインを世にリリースしました、そして、そのワインは高い評価を受け、ワイン事業を成功に導いてくれました。

「最初は趣味みたいなもので、片手間仕事としてワイン作りを始めたんだけど、ロンダのワイン作りを復活させるという、エキサイティングな大きなプロジェクトの先駆的推進力の一部になれる事は、リスクは高いけど、やりがいのあることだと感じていた」と彼は言う。「そして、どんどんワイン作りにのめり込んで、気づいたらワインが本業になっていたんだ。僕は、自分の人生に誇りを持っていて、ワインはその誇りの一番大きな部分を占めている。娘は大学で化学と共にワイン醸造学も勉強していて、将来は一緒にチンチーリャのブランドを拡大していくつもりだ。彼女は小さな頃からワインと共に育ってきたので、ワイン作りの経験値はあるから、今はその理論を取得中なんだ。」と笑顔で話しました。

 ホセは、ワインの作り手達が組織した、ロンダ山脈ワイン・ブドウ生産者協会の委員長を長く勤め、ロンダ全体のワイン品質の維持・向上に努めてきました。そして、今年からマラガ県全体のワイナリー・ブドウ生産者を統合する規格管理委員会(DO Malaga)の委員長に就任しました。これは、ホセの個人的な成果が認めらたという事だけではなく、ロンダがマラガ県におけるワイン産業の重要な地位を築いている事を意味しているとも言えます。ロンダにおけるワイン作りの復活に賭けてきた作り手達の努力の結果でもあるとも言えると思います。ホセに「マラガ県のまとめ役になっておめでとう!」というと、彼は、謙遜しながら、「喜んで良いのか、悲しんだ方が良いのか、実は複雑な心境だよ。ワイン作り以外に時間が採られるからね」、と少し複雑な表情を見せました。

 高品質ワインを作るには、情熱だけでは足りない

  ホセは、国際コンクール等で受賞できる様なワインを作る為には、情熱だけではだめで、自分がワイン作りでしている事を、理論的・科学的に理解できる十分な知識と経験、そして技術を身に着けることが必要だと言います。彼の醸造所で、最新の温度管理と圧力弁技術等を見せてくれました。全てが管理され、見過ごされるものは何一つない、最新技術によるワイン作りがここでは行われています。

 ホセは、ドナ フェリーサ以外に、隣接する借地に数ヘクタールのブドウ畑を持っています。チンチーリャ ワインの知名度が上がるにつれ、ワインの生産量も増えています。「ワインの生産量を増やすには色々なやり方があるんだけど、僕はいつもブドウ栽培においては、量ではなく質を維持する事を常に考えてきた。1本の木から、少しでも多くのワインを搾るなんていうやり方は自殺行為で、必ず品質が犠牲になるやり方だ。だから、生産量を増やすために、僕はその分の畑を増やしてきた。今までやってきた農法を守り、ブドウの木を植えて、畑を拡張するやり方で、品質を損なわない方法を採ってきた」と彼は言う。

 地下のワイン貯蔵庫に隣接するテイスティングエリアに向かう途中の小さなホールに、ローマ時代にさかのぼるロンダのワイン作りについての、ミニ博物館があります。地元で発見されたり、近所の農家から寄贈されたりした矢じり、土器の破片やコインなどが展示されています。展示されているコインにはくっきりと葡萄の印が入っており、古代ローマ帝国のワイン作りにロンダがいかに重要な役割を果たしてきたかだわかります。壁には、ブドウ栽培における自然環境の重要性を示すポスターが貼られ、その横にはこの地域の古い写真が展示されています。

 

 ホセは、大きな樹皮を指差して、「あの大きなコルク片が見えますか?」と言った。「あれがコルクの樹皮だ。コルクにも色々なグレードがあるって知ってる?。ワインのボトルを開ける時、多くの人はコルクについてあまり考えないと思うけど、質の良いコルクは高いんだよ。ワインのボトルを開けて、そのコルク栓を見るとそのワインの成り立ちが分かるんだ。コルク栓を打ち抜けるほど分厚い樹皮になるまでにコルクの木が育つには9年もかかるんだ。だから、質の高いコルク栓は高いんだよ。そして、コルクはワインの質に重要な影響を与える。だから、僕は高品質のコルク栓しか使わないんだ。」

 ホセは、テイスティングエリアに案内してくれました。ここは田舎風のキッチンに似た居心地の良いエリアで、置かれた大きなテーブルは格子柄のテーブルクロスで覆われ、その後ろの棚には何列にもわたるワインボトルが並んでいます。その中には1950年代にさかのぼるボトルもあります。ガラス張りの壁の反対側には、低温に温度管理されたワイン貯蔵庫に樽が並んでいます。

 ワインを飲む時には、食べ物と会話相手が必要

  チンチーリャ セイス+セイス (Seis + Seis) をグラスに注ぎながら、「ここでは、色々な味わいのワインを作っているんだ」と彼のワインの話をし始めました。「この前、市場調査をしたら、このセイス+セイスは女性に人気があることが分かった。その結果をもとに、ワインのラベルを変える事にしたんだ。スペイン風のデザインを保ちながら、より女性的なものに変えた。」と、マーケティングにも真剣に取り組んでいる様子を話してくれました。

 若い女性がタパスを運んできてくれました。ホセは、私たちにそれをつまむよう勧めながら、さらにワインについての話を続けます。「ワインを美味しく飲むには、必ず食べ物がいる。食べ物を美味しくするためにワインを合わせるか、ワインを美味しく飲むために、食べ物を合わせるかはその時々の気分で変わるけど、それと同時に、会話を楽しむ相手も必要だと思う。これはワインを楽しむためには、大切な要素だと思う。おいしいスペイン料理に、素晴らしい仲間。一人で飲むワインは何か物足りなさがあるよね。」と彼は笑った。

  ホセが、ワイナリーの2階にある彼のオフィスに案内してくれました。彼の机の後にある棚には沢山の古い携帯電話が飾ってあります。「こういう工業製品はどんどん新しい製品が出て、機能もどんどん増える。そうすると、まだ使えるのに、新しい携帯電話を買わざるを得なくなるよね。ここにある携帯電話は、僕が今まで使ってきたもので、まだ使える電話なんだ。使えるものを捨てる事はもったいなくてできないから、こうやって棚に並べていたら、こんなコレクションになってしまったんだ」と、彼は言います。その隣には、いくつかのワインのボトルが並んでいます。どんどん変わる現代を象徴する様な古い携帯電話のコレクションと、何百年・何千年という間基本的には変わらないワインをが並んでいるのを眺めていると何か不思議な感覚に捕らわれます。

 オフィスの隅に目を移すと、そこには色々なワインコンクールで受賞した賞状や楯、その他の書類などが無造作に置かれた机があります。何年も連続して受賞したコンクール等、彼にとっては重要な宝のはずです。「何で、こんな宝ものが無造作にここに置かれているの?」と聞くと「確かに、こういう賞をもらうのは名誉だし、賞をもらう事を目的にコンクールにも参加している。だけど、僕は、コンクールよりも、実際に僕のワインを飲んでくれている人達からの評価の方が重要だと考えているんだ。」と言います。

  「ワイン作りには多くの時間がかかるけど、人生で最高に素朴な楽しみも与えてくれる。たまに自由な時間ができると、僕は古い機械をリビルドしたり、孫娘と遊んだりして時間を過ごすんだ。こういう時に、素晴らしい充実感を覚える。」

 ホセは、ワイン作りの夢を達成し、古くから伝わる知識と現代の技術をうまく組み合わせて、自分のワインへの愛情を事業化する事に成功した様です。

「チンチーリャ ワインには、まだ沢山のアイデアと計画があるんだ」と苦笑しながら彼は言います。「いつの日か、アグリツーリズモを通じて、ワインの愛好家が僕達と休日ステイをできるようにしたいんだ。ワインをもっと身近に理解してもらい、ロンダワインを楽しんでもらって、この地域のワインや、食材、料理の味を感じてもらいたいんだ。」と言い、最後にこう付け加えました。「古代ローマ人は2000年以上も前にここでワイン作り始めた時、間違いなく自分達がここで手に入れたものが何なのかを理解していた。それを、今僕達が、度再発見できて本当に幸運だと思う。」と。

  一階にある、小さなワイン売り場を抜けて外に出ると、犬のティントが私たちの足元を駆け回り、畑から、ホセのスタッフ達が手を振ってくれた。その風景の美しさには目を奪われます。ホセが自分のルーツである、ワイン作りに戻ってきたのが理解できる様な気がします。ワイン作りの里から離れて暮らしても、ワインから逃げる事ことはできないんだと思います。