ボデガス ヴェタス

作り手:フアン ヴェタス

-ロンダワイン作り復活の祖-

 

 

 ワイン作りの豊富な経験とパイオニア精神を持ったファン・マヌエル・ヴェタスは、当時まだ若かった家族を連れてボルドーのメドックからスペインのロンダに移住してきました。ここから、19世紀末に途絶えたロンダにおけるワイン作りの復活が始まります。

彼はこの地でワイン作りに貢献することで、ロンダワイン復活の祖となります。彼は、フランス原産のブドウをロンダに持ち込み、ワイン作りを始めました。その後、他の作り手も、ヴェタスに続きロンダでのワイン作りに着手し、ロンダはアンダルシアならではの魅力を持ったワインの生産地として急成長を遂げることになりました。

すべてのロンダのブドウ畑は、無数の田舎道を通じてヴェタスにつながっている。

ロンダのなだらかな土地の奥まったところにヴェタスのブドウ畑とスペイン風の白い家があります。オリーブ畑や小麦畑に囲まれている、大きなワインボトルのモチーフが2つ付いた鉄の門をくぐると、スペイン的魅力に溢れたヴェタスの人柄を表すようなストイックで気取らない家とブドウ畑が目に入ります。

彼は「我が家へようこそ。」と我々を迎えてくれ、家に案内してくれました。家の中は落ち着いた空間が広がっています。犬が暖かい日向に座っていて、周りからはまるで子守唄のような自然のハミングが聞こえてきます。ワイン作りのことをあまり知らなくても、春の訪れと、それがもたらす新しい生命のサイクルの無限性をここは感じさせてくれます。

すべてのロンダのブドウ畑は、無数の田舎道を通じてヴェタスにつながっています。ワイン作りの手法と伝統を尊び、自分をアピールすることもなく、一歩一歩確実にワイン作りに挑み、ロンダワインを復活させたヴェタスの顔には忍耐と決意が刻み込まれている様に見えます。

「パイオニアであるということはそう簡単なことじゃなかった。」とワイン畑を見下ろすパティオに立って彼は言いました。遠くから雄鶏の鳴き声だけが聞こえてきます。「最初に何かを作りだすというのは、甘苦い経験だった。成功が全て自分のものになる一方で、失敗も全て自分のもの。失敗しても、それを分かち合える人、相談しあえる人は誰もいなかったんだ。全て自分一人でやるしかなかったんだ」と語ってくれました。

ボルドーのワイナリーで働きだした十代だった頃の彼の生涯の夢

雇われワイン職人だったヴェタスは、1990年代末に、土地を購入して自分のワインを作ることを決心します。それは、まだ小さかった頃、スペインの内戦から逃れフランスに移住し、ボルドーのワイナリーで働きだした十代だった頃からの彼の生涯の夢でした。ヴェタスは、その夢を実現すると共に、彼に続きこの地で新たにワイン作りに挑戦を開始した作り手に、如何にすれば作り手の理想とするワインを作ることができるのか、それぞれ独自のアイデンティティと特徴を持つワインが出きるのかを教えてしてきました。

 「僕がロンダでワイン作りを始めてからもう30年近くになるけど、その間に、色々なブドウ品種を栽培するワイナリーが23軒も誕生したんだ。僕たちは、それぞれ自分の理想とする異なったワインを作っているけど、一方、みんなこのロンダでワイン作りを一緒にしているという意味で一つの大きな家族のようにつながっているんだ。」と彼は言います。

ヴェタスにとっては家族が全て

ワイン作りの第一歩を踏み出す若いワインの作り手にとって父親のような存在であるヴェタスですが、もちろん彼自身の家族も彼のワイン作りの将来にとって大切な意味を持っています。外でヴェタスと話をしていると、ヴェタスの奥様エレーナが来て、話に加わってくれました。プチ・ヴェルドを自分のグラスに注ぎながら「このワイナリーの営業や事務的なことは私が全部担当しているのよ。」と言います。「私達は家族経営というその言葉通りで、息子と娘は、いつか私たちの後を継げるようにと、ワイン作りの勉強してくれているの」。ヴェタスは、テーブルの上の「ヴェタス・ジュニア」のボトルを指差しながら「このワインのラベルのデザインで使っている手型は、孫の手型なんだ。こうやって家族皆がワイン作りに参加しているんだ。このワイナリーもいつかこの孫のものになるんだよ」と嬉しそうに言います。

ヴェタスは2ヘクタールというワイナリーとしては本当に小規模な土地で、1年間に8000本という極少量のワインしか作っていません。彼にとっては量より質が大切だからです。

「ブドウ畑を僕が自分で管理することが僕にとっては一番大切な事なんだ。ワインの生産量をこれ以上増やすとそれが出来なくなってしまう。だから、これ以上ブドウ畑を拡張する気はないんだ」と早春の光から目を遮り、ブドウ畑を眺めながら彼は話してくれました。「ブドウやワインは私にとっては子供のようなもの。だから、他人に譲りたいとは思わない。僕は最初のブドウの発芽からワインの瓶詰めまで、その全てを自分で管理しているんだ。これ以外のやり方は僕にはないんだ。」

彼のワインである「ヴェタス・セレクシオン(カベルネ・ソーヴィニョン、カベルネ・フランクにプチ・ヴェルドのブレンドワイン)」、彼の最高作品である「ヴェタス・プチ・ヴェルド(プチ・ヴェルド100%)」、そして、最新作「ヴェタス・ジュニア(プチ・ヴェルド100%)」は、いずれもそのフランスワインの風味にロンダの土壌味が感じられる事で知られています。彼は、自分のワインが自然との調和による、有機栽培で作られていることに誇りを持っています。ここではスペインの土壌で育つ純粋なフランス産原産のブドウが一切何も加えられずに、自然と愛と献身の調和によって作られています。

「趣味は何ですかと、色々な人からよく聞かれるんだけど…」と彼は笑います。「ワイン作りのことを少しでも知っている人なら、休日や休み時間など無い事は良く知っているんだが。。。ほかの事をする時間など殆どないから、ワイン作りは本当に好きでなければできないと思う。」

醸造所に行くと、18世紀のワインオープナーのコレクションが誇らしげに飾られています。ヴェタスはワインの知識をさらに広げるためにフランスへ行った時のことをや、人生においてワインが如何に大切かをどうやってソムリエたちやワイン愛好家に伝えるかを、笑顔で語ってくれました。

「僕はワインといつも恋愛関係にあるフランス人を尊敬しているんだ。」彼はそう言ってワイングラスを傾け、グラスに残る透明なボルドー色のワインを私に見せながら、続けて「フランス人は飲み物にこだわりを持っているんだ。ワインは、家族、家庭料理、そして、思い出作りに欠かせない存在なんだ。彼らは良いワインを大切に特別な日のために保管しておくんだよ。僕は、悪いワインを毎日飲むよりも、良いワインを一週間に一度飲むほうが良いと思っている。ワインについて聞かれると僕はいつもそう答えるんだ。」と話してくれました。

ヴェタスのワインの背後にある哲学は何なのか?彼はそれを「情熱、忍耐、そして尊敬」という3つの言葉に要約してくれました。「まずは集中すること。また、最良のワインを作るには長い時間がかかることを理解すること、そして最良のワイン作りには周りの自然環境・土壌が重要な意味を持つことを知ること。つまり自然から与えられたものを旨く最大限活かした仕事をすることなんだ。」

パイオニア精神と情熱的なワインの作り手。そして家庭人としてのヴェタスは、今、彼の理想にしてきたワインに到達した様に見えます。窓を開ければそこには彼の仕事の成果が広がっています。彼の今までの努力は現在の成果だけではなく、将来子孫が代々家業を継ぐための土台にもなった様です。彼の土地、ブドウ、そして伝統に対する尊敬は、ヴェタスの名において末永くこのロンダで継承されてゆくことだろうと思います。

「早朝に目覚めてその日の仕事を楽しみにしているというのは、仕事をしているとはいえないよね」と彼は目にしわを作りながら笑顔で言います。「仕事をしなくて済む唯一の方法は、自分が愛していることを仕事にすることだよ。僕にとってはワイン作りは仕事じゃなくて、人生そのものなんだ。」と最後に話てくれたのが印象に残ります。